はじめに
本記事はワタシが研修講師として解説講義した内容に基づいて書いています
マーケティング1.0は、製品中心の考え方に基づいたマーケティングの初期形態で、大量生産・大量消費が前提の時代に発展しました
この時代の主な特徴は、「作れば売れる」 という市場環境です
特に、1900年代から1960年代頃にかけて、企業は技術革新と工場の生産能力向上を活かし、大衆向けの商品を大量に生産することで市場を拡大しました
この時代に生まれ、現在でも広く活用されているマーケティングのフレームワークが、マーケティングミックス(4P) です
マーケティングミックス(4P)とは?
マーケティング1.0では、製品を中心とした戦略を立てる際に、以下の4つの要素を組み合わせることが重要とされました
製品(Product) 何を売るか? ・特徴/品質 ・デザイン/パッケージ ・アフターサービス など | 価格(Price) いくらで売るか? ・希望価格/卸価格 ・支払い方法/支払い条件 ・割引、値引/無料 など |
流通チャネル(Place) どうやって届けるか? ・店舗/オンライン ・立地/配送 ・在庫/保管 など | プロモーション(Promotion) どうやって売るのか? ・PR/広告宣伝 ・セールスプロモーション ・人的販売、営業 など |
- 製品戦略(Product)
- 価格戦略(Price)
- 流通戦略(Place)
- プロモーション戦略(Promotion)
このフレームワークを活用することで、企業はより体系的に市場にアプローチできるようになり、販売拡大を実現しました
製品戦略(Product)
マーケティング1.0の時代、企業は「消費者が求める製品を大量生産し、低コストで提供すること」が成功のカギでした
製品は単なるモノではなく、さまざまな顧客に対して異なる価値を提供する「価値の集合体」として捉えられます
- 製品の構造とその要素

出所:https://cyber-synapse.com/dictionary/ja-ha/three-levels-of-product-models.html
製品は単なるモノではなく、以下の3つの要素で構成されます
- 中核となるベネフィット・サービス(Core Benefit)
- 顧客が製品を購入する主な理由であり、製品が提供する基本的な価値
- 例:スマートフォンなら「通信機能」、自動車なら「移動手段」にあたる
2. 製品の実体(Actual Product)
- 製品の具体的な形や機能を構成する部分
- 例:自動車なら、走行性能、燃費性能、デザイン、内装、安全装置など
3. 付随機能(Augmented Product)
- 製品に付加されるサービスや保証、アフターサポートなど。
- 例:無料修理保証、カスタマーサポート、特典サービスなど。自動車なら納車や点検など。
このように、製品には「中核」「実体」「付随機能」という3つの層があり、それぞれが顧客の購買行動に影響を与えます
提供価値の4つの構造
製品が提供する価値には、大きく以下の4つがあります
- 機能的価値(製品の基本的な性能や特長)
例:トヨタのプリウスは、ハイブリッド技術による高燃費性能を提供し、環境への配慮を訴求しています
- 情緒的価値(製品がもたらす感情的な満足感)
例:ロレックスの腕時計は、所有することで得られる高級感とステータスを顧客に提供しています
- 自己実現価値(自己の成長や目標達成につながる価値)
例:AppleのMacBookは、クリエイティブな作業をスムーズに行うためのツールとして、デザイナーやエンジニアの自己実現をサポートしているといえます
- 社会的価値(社会に与える影響)
例:パタゴニアの製品は、環境に優しい素材を使用し、エシカルな消費を支援することで、企業の社会的責任を果たしています
製品コンセプトとは?
製品コンセプトを明確にすることは、マーケティングの成功に不可欠です
「顧客は何がうれしくてその製品を買うのか?」という視点を持ち、製品が誰にどのようなベネフィットを与えるのかを明確に記述することが重要です
これはそんなに簡単にはいきません
私も実務では、幾種類もの商品・サービスを開発、ローンチしましたが、イマイチ顧客に響かなかったものもあります
顧客を観察し、知り、よく理解するように考え抜くことでより良いコンセプトにたどり着けることもあります
商品・サービスコンセプトの例として、2つ挙げます
- iPhone:Appleは「ユーザーエクスペリエンスの向上」を製品コンセプトとして掲げ、直感的な操作性と洗練されたデザインを提供しています
- スターバックス:単なるコーヒーではなく、「サードプレイス(家でも職場でもない居心地の良い場所)」を提供することをコンセプトにしています
プロダクトライフサイクル(PLC)
製品には、誕生から市場撤退までのライフサイクルがあります

それぞれのライフサイクル時期には、一般的に次のような特徴があります
- 導入期(市場投入直後なので、製品はほとんど知られていません。認知拡大が課題です)
- 成長期(成長期は売上が拡大します。その分、企業の参入が増え、競争が激化します)
- 成熟期(市場が飽和してきて、差別化も効きにくくなり、価格競争が発生します)
- 衰退期(製品に対する需要が減少します。撤退戦略が求められます)
製品戦略を考える際には、このライフサイクルを意識し、適切な施策を実行することが求められます
ただし、全ての製品が上記のようなライフサイクルをたどるわけではありません
これまでに世に出ていた製品でも、急速に消えていったもののあれば、成熟期でありながらも、末永く愛用されている製品・サービスもあります
ブランドとは?
ブランドは、単なるロゴやデザインではなく、消費者にとっての「価値の象徴」です。強力なブランドは、価格競争を回避し、企業の競争優位性を高める役割を果たします
よく「ブランド物」と言って高級品を指すときに使われる言い方がありますが、「ブランドとは、個別の売り手または売り手集団の財やサービスを識別させ、競合する売り手の製品やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせ」と定義されています
- ブランドの3つの機能
- 識別機能・・・他社製品との差別化になり、購買に関する情報処理の時間やコストを節約する
- 保証機能・・・品質や価値を保証するものとなり、購買リスクの軽減、回避をする
- 付加価値機能・・・ブランドが持つストーリーやイメージで、満足感を高めたり、自己実現の手段となる
また、ブランドには6つの役割があるとされています
- 商標権を設定することで法的保護が受けられ、競合企業と差別化できる
- ブランドに対する消費者のロイヤルティを築くことで、安定的な売上を確保できる
- プレミアム価格の設定が可能となり、プロモーションへの依存度が小さくなることで、高マージンを実現できる
- ブランドの拡張により成長機会を増やすことができる
- 流通チャンネルが販売リスクを低減させるために積極的に取り扱ってくれる
- 新規参入者に対する障壁となり、競争優位の構築に貢献する
価格戦略(Price)
価格は、企業の利益に大きな影響を与える要素です
売上=販売数量 × 価格 の式からも分かる通り、価格設定は経営に直結します
利益ドライバーの4要素
利益を左右する主要な4つの要因は以下の通りです。
- 販売数量(売れた個数)
- 価格(販売単価)
- 変動費(原材料費、製造コスト)
- 固定費(家賃、人件費など)
この中で最も利益に影響を与えるのが「価格」です
一つ例を見てみましょう
基準ケース | 数量10%減 | 価格10%下落 | 変動費10%上昇 | 固定費10%上昇 | |
売上高 | 1,000 | 900 | 900 | 1,000 | 1,000 |
変動費 | 600 | 540 | 600 | 660 | 600 |
限界利益 | 400 | 360 | 300 | 340 | 400 |
固定費 | 300 | 300 | 300 | 300 | 330 |
税引前当期利益 | 100 | 60 | 0 | 40 | 70 |
利益の変動率 | – | -40% | -100% | -60% | -30% |
※限界利益・・・売上高から変動費を引いた利益をいいます
- 販売数量が10%減少した場合、変動費も数量に伴って10%減少。固定費はそのままなので、当期利益は6,000となり、利益は40%減少しました
- 価格が10%下落した場合(値引きや割引)、変動費は減りません。固定費も減りません。当期利益は0となり、利益は100%減少しました
- 変動費が10%上昇した場合、それに伴って価格を上げないと限界利益が減ります。固定費は変わらずなので、当期利益は4,000となり、利益は60%減少しました
- 固定費が10%上昇した場合、売上高、変動費は変わらず、当期利益は7,000となり利益は30%減少しました
必ずこのシミュレーションどおりになるわけではないですが、もっとも利益にインパクトを与えるのが価格です
次いで変動費です
安易な値下げ、値引きは利益率を低下させてしまいます
なお、昨今は物価高の時代で、軒並み製品・サービスの価格が上がっています
主に、仕入れ原価と人件費が上がっているためで、価格を上げないと企業が存続できない状況になっています
一方、この物価高になる前の時代には、値下げによって顧客獲得を狙う顧客もよく見受けられましたが、利益に大きな影響を及ぼすので慎重な意思決定が必要です
また、リストラで固定費を削減するニュースを耳にします
固定費は、価格や変動費、販売数量と同じ水準で比較すると利益に与えるインパクトが小さいですが、本社ビルの売却、数千人の社員の早期退職の実施というように、大規模な削減であれば当然インパクトがでます
流通戦略(Place)
流通(チャネル)は、製品を顧客に届けるための仕組みです
主な機能には以下の4つがあります
- 商流(商品の売買と決済の流れ)
商流とは、商品がメーカーから消費者に届くまでの売買や決済の流れを指します
この流れを最適化することで、顧客がスムーズに商品を購入できるようになります
企業事例:Amazon(アマゾン)
Amazonは商流の最適化に成功しています
同社は独自の決済システム(Amazon Pay)を提供し、クレジットカード決済やデジタルウォレットとの連携を強化することで、顧客が迅速かつ簡単に商品を購入できる環境を整えています
また、マーケットプレイスの仕組みにより、多くの出品者がAmazon上で商品を販売できるようになっています。
2. 物流(商品の配送・保管)
物流は、商品を適切に保管し、顧客へ迅速に届ける仕組みです
これが効率的に機能しないと、在庫不足や配送遅延が発生し、顧客満足度が低下してしまいます
企業事例:UNIQLO(ユニクロ)
ユニクロは、世界中に効率的な物流網を構築し、高速配送を実現しています
特に、ユニクロは「有明倉庫」を活用し、AIと自動化技術を導入することで、倉庫内のピッキング作業を迅速化。
店舗やオンライン注文の在庫管理を一元化することで、商品を適切なタイミングで顧客に届ける仕組みを構築しています
3. 情報流(市場データや顧客フィードバックの流れ)
情報流は、市場の動向や顧客のフィードバックを収集し、商品開発や販売戦略に反映する仕組みです
企業事例:Netflix(ネットフリックス)
Netflixは、視聴データを活用してユーザーの嗜好を分析し、パーソナライズされたレコメンド機能を提供しています
また、視聴データをもとに新たなオリジナルコンテンツの制作に反映させることで、ユーザー満足度を向上させています
Netflixの情報流の活用は、視聴者のデータを即座に収集・分析し、ビジネスに活かす好例といえます
4. 補完的機能(アフターサービス、サポート体制)
補完的機能とは、商品購入後のアフターサービスやサポート体制を指します
これにより、顧客が長期的に満足できる体験を提供することができます
企業事例:Apple(アップル)
Apple Storeでは、専門スタッフが対面で技術的なサポートを提供する「Genius Bar」を設け、ユーザーが問題を迅速に解決できる仕組みを整えています
プロモーション戦略(Promotion)
プロモーションは、製品の認知拡大と販売促進のための活動を指します
製品タイプ別のプロモーション戦略
- 生産財(BtoB)
- 取引先との長期的関係構築が重要。
- 展示会、営業訪問、カスタマーサポートが中心。
- 消費財(BtoC)
- マス広告(テレビCM、新聞広告)やSNSを活用。
- 店頭プロモーション(POP広告、試供品)も有効。
製品ライフサイクル別のプロモーション
- 導入期:認知拡大 → 大々的な広告投資が必要。
- 成長期:競争優位の確立 → ブランド構築。
- 成熟期:差別化戦略 → ロイヤルカスタマーの育成。
- 衰退期:撤退戦略 → コスト削減や在庫処分。
まとめ
マーケティング1.0の時代は、製品中心の考え方に基づくものであり、「良い製品を作れば売れる」時代でした
その中で生まれたマーケティングミックス(4P)は、現代マーケティングにも通用する基本フレームワークです
次回は、マーケティング2.0(顧客中心のマーケティング)について解説します
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